楊令伝 八
箭激の章(せんげきのしょう)
激戦が続き、童貫軍がゆっくりと梁山泊内に進軍した。
岳飛は先行して棗強を奪取する。
楊令は新たな軍の配置を命じ呼延灼の軍は息子の呼延凌が引き継いだ。
扈三娘軍には花飛麟軍が援護に入り、劉光世、張俊軍とぶつかり合う。
雨の降りしきる戦場で、花飛麟は扈三娘への恋情を露わにした。
一方、金国は対宋開戦でまとまり、唐昇を先鋒に、完顔成、撻懶、斡離不が南下を始める。
楊令伝、悲闘の第8巻。
辺烽の章 目次
地速の光
天退の夢
地角の光
地霊の光
地楽の光
箭激の章(せんげきのしょう)
激戦が続き、童貫軍がゆっくりと梁山泊内に進軍した。
岳飛は先行して棗強を奪取する。
楊令は新たな軍の配置を命じ呼延灼の軍は息子の呼延凌が引き継いだ。
扈三娘軍には花飛麟軍が援護に入り、劉光世、張俊軍とぶつかり合う。
雨の降りしきる戦場で、花飛麟は扈三娘への恋情を露わにした。
一方、金国は対宋開戦でまとまり、唐昇を先鋒に、完顔成、撻懶、斡離不が南下を始める。
楊令伝、悲闘の第8巻。
辺烽の章 目次
地速の光
天退の夢
地角の光
地霊の光
地楽の光
地速の光
童貫軍が、ゆっくりと動き、清河をあたかもないもののごとく無視し、梁山泊に入ってきた。
その間、張清は清河の城郭と城外の砦に全兵を籠らせ、動いていない。
なにしろ、九万の軍である。
おかしな手の出し方をすれば、あっという間に押し包まれる。
梁山泊に引き入れて、兵站を断つという方法も、頭では考えられた。
しかし、まだ九万の軍が、梁山泊周辺にいるのだ。
どこからでも、補給は受けられる。
情報では、いまは真定府に退がった趙安と陳煮の軍の指揮は、李明が執るという。
李明の軍は劉光明が引き継いでいて、張俊と連携している。
劉譲は戻され、童貫の軍にいた。
そういう状況の中で、童貫は不意に動いて、梁山泊に入ってきた。
第一に考えられるのは、童貫軍と、梁山泊の東に位置している、劉光世、張俊の軍による、本寨挟撃である。
それについての防備を、宣賛は声を荒立てて急かしていた。
本寨には、聚義庁があり、また家族の一部も入っているが、守備としては郭盛軍の一万五千がいるだけである。
童貫がなにをやる気なのか、はじまってみなければわからない、と呉用は考えていた。
「よく、そうやってのんびりとしていられるものですね、お二人とも」
日溜りに腰を降ろして杜興と喋っていると、宣賛が近づいてきて言った。
「童貫は、駆けているわけではあるまい。
たとえこの近くに来るとしても、あと二、三日はかかるのではないかのう」
「たった二、三日で、来てしまうということですよ」
「それで、童貫は、ここを攻める気でおるのかのう」
「それは、わかりません。しかし、最悪の想定はしておくべきです」
「宣賛」
呉用が言うと、宣賛の眼がこちらをむいた。
「覆面を替えて、それをみんなに知らせてやってくれ。
私をおまえと間違えて、つまらん指示を求めてくる者が多すぎる」
「そんな」
「同じ覆面と洒落てみたが、、私が迷惑するだけだ」
「戦時です。
童貫軍の、しかも本隊が、そこまで来ているのです。
戯れは、やめていただきた。」
「私がなにか言って、おまえの指示と間違えられても、困るであろう、宣賛」
「できることなら、すべての指示を呉用殿にしていただきたい、と私は思います」
「それなら、なにもない。なにもするな」
杜興が、低い声で笑った。
笑い続ける杜興を睨みつけ、宣賛は聚義庁の中に消えた。
「滅多にあることではあるまい、呉用殿」
不意に笑うのをやめ、杜興が言った。
「だといいがな」
「それに、敵と味方の区別は、しっかりついておる」
呉用は、性癖と呼ぶべきものかどうか、わからない。
(…この続きは本書にてどうぞ)
童貫軍が、ゆっくりと動き、清河をあたかもないもののごとく無視し、梁山泊に入ってきた。
その間、張清は清河の城郭と城外の砦に全兵を籠らせ、動いていない。
なにしろ、九万の軍である。
おかしな手の出し方をすれば、あっという間に押し包まれる。
梁山泊に引き入れて、兵站を断つという方法も、頭では考えられた。
しかし、まだ九万の軍が、梁山泊周辺にいるのだ。
どこからでも、補給は受けられる。
情報では、いまは真定府に退がった趙安と陳煮の軍の指揮は、李明が執るという。
李明の軍は劉光明が引き継いでいて、張俊と連携している。
劉譲は戻され、童貫の軍にいた。
そういう状況の中で、童貫は不意に動いて、梁山泊に入ってきた。
第一に考えられるのは、童貫軍と、梁山泊の東に位置している、劉光世、張俊の軍による、本寨挟撃である。
それについての防備を、宣賛は声を荒立てて急かしていた。
本寨には、聚義庁があり、また家族の一部も入っているが、守備としては郭盛軍の一万五千がいるだけである。
童貫がなにをやる気なのか、はじまってみなければわからない、と呉用は考えていた。
「よく、そうやってのんびりとしていられるものですね、お二人とも」
日溜りに腰を降ろして杜興と喋っていると、宣賛が近づいてきて言った。
「童貫は、駆けているわけではあるまい。
たとえこの近くに来るとしても、あと二、三日はかかるのではないかのう」
「たった二、三日で、来てしまうということですよ」
「それで、童貫は、ここを攻める気でおるのかのう」
「それは、わかりません。しかし、最悪の想定はしておくべきです」
「宣賛」
呉用が言うと、宣賛の眼がこちらをむいた。
「覆面を替えて、それをみんなに知らせてやってくれ。
私をおまえと間違えて、つまらん指示を求めてくる者が多すぎる」
「そんな」
「同じ覆面と洒落てみたが、、私が迷惑するだけだ」
「戦時です。
童貫軍の、しかも本隊が、そこまで来ているのです。
戯れは、やめていただきた。」
「私がなにか言って、おまえの指示と間違えられても、困るであろう、宣賛」
「できることなら、すべての指示を呉用殿にしていただきたい、と私は思います」
「それなら、なにもない。なにもするな」
杜興が、低い声で笑った。
笑い続ける杜興を睨みつけ、宣賛は聚義庁の中に消えた。
「滅多にあることではあるまい、呉用殿」
不意に笑うのをやめ、杜興が言った。
「だといいがな」
「それに、敵と味方の区別は、しっかりついておる」
呉用は、性癖と呼ぶべきものかどうか、わからない。
(…この続きは本書にてどうぞ)