水滸伝 十九
旌旗の章
最終決戦の秋が訪れる。
童貫はその存在の全てを懸けて総攻撃を仕掛けてきた。
梁山泊は宋江自らが出陣して迎え撃つ。
一方、流花寨にも趙安が進攻し、花栄が死力を尽くし防戦していた。
壮絶な闘いによって同志が次々と戦死していく中、遂に童貫の首を取る好機が訪れる。
史進と楊令は、童貫に向かって流星の如く駈けた。
この国に光は射すのか。
漢たちの志は民を救えるのか。
北方水滸、永遠の最終巻。
旌旗の章 目次
地満の星
天威の星
地醜の星
地明の星
天捷の星
天魁の星
旌旗の章
最終決戦の秋が訪れる。
童貫はその存在の全てを懸けて総攻撃を仕掛けてきた。
梁山泊は宋江自らが出陣して迎え撃つ。
一方、流花寨にも趙安が進攻し、花栄が死力を尽くし防戦していた。
壮絶な闘いによって同志が次々と戦死していく中、遂に童貫の首を取る好機が訪れる。
史進と楊令は、童貫に向かって流星の如く駈けた。
この国に光は射すのか。
漢たちの志は民を救えるのか。
北方水滸、永遠の最終巻。
旌旗の章 目次
地満の星
天威の星
地醜の星
地明の星
天捷の星
天魁の星
地満の星
北の地域での物の動きが、慌しくなっていた。
童貫軍の兵站線は、北が中心になっているようだ。
兵站を切るのは、難しい。
十日切ったとしても、さし迫った事態にはならないだけの蓄えが、濮州近辺の城郭にはあるはずだ。
孟康は、これまで付き合いのあった商人を通じて、麦を買い集めた。
麦秋までには、まだ時がある。
各地で少なくなっている麦を集めることで、童貫軍に麦が入りにくくなる。
それぐらいのことしか、できなかった。
梁山泊の兵糧は、潤沢である。
だから、買い付けた麦を、運びこむ必要はない。
船で、さらに北へ運んだ。
女真の地である。
山に拠る阿骨打は、兵糧が不足している。
なぜ女真族を助けるのか、理解できないところはあった。
童貫軍との決戦なのだ。
女真族に銀や兵糧を送っている場合ではない、という気もする。
命令は、聚義庁から出ていた。
だから、宋江も承知していることだろう。
自分や自分の部下が、戦に加わったとしても、大した力にはならない。
うまく理解できないことでも、聚義庁の命令に従っていた方がいい。
これまでも、理解できない命令は時々あり、終ったあとに、なんのためだったかわかったりしたのだ。
「国境近辺の州には、もう余分な麦はありませんよ。
西じゃ、足りなくなっているという話です」
女真の地へ送るのではなく、西に運べば、間違いなく高く売れる。
つまり、商いになるのだ。
しかし、そうしろという命令も出ていない。
「いま代州より西へ運んだら、結構な儲けになるはずなんですがね」
言い続ける部下を、孟康は制した。戦より、商いがうまい部下ばかりだ。
「とにかく、女真へ運べ。さすがに、もう銀を運ぶことはないが、兵糧は役立つはずだ」
「女真族が遼と闘えば、宋は国境の警備が楽になる。つまり、宋を利していることになりませんかね」
利に聡い部下ばかりで、だから情況もよく見る。
確かに、阿骨打が決起してからは、国境守備の宋軍は、楽になっている。
「梁山泊軍が闘っているのは、禁軍だ。童貫だぞ。
国境などは、どうでもいいのだ。
いま女真に兵糧を送ることは、いずれ役に立つと聚義庁では考えているのだろう。
いずれが、三年先か、五年先かはわからんが」
「ですよね。頭じゃわかっているんですが」
女真に送った麦は、相当な量になる。
ほかには、五台山の近くの山間に、かなりの量を蓄えているし、深州の近辺に拠点を築いた唐昇にも、いくらかの量を送っている。
唐昇の一党は八百ほどに増え、宋軍に攻められたら闘う、という構えは見せているが、完全に梁山泊と合流するまでには到っていない。
唐昇の心の中で、さまざまなものがせめぎ合っているのだろう。
宋江や呉用と、書簡のやり取りはあるようだ。
いま、通信のすべては、張横と王定六がやっていた。
以前より速くなったのは、船飛脚と人が駈けることの組み合わせが、どの地域でもうまくいきはじめたからだろう。
童貫軍は、梁山泊軍本隊と、二十里の距離まで近づいてきているという。
そこで腰を据え、睨み合っているというのが、いまの状態だった。
いつぶつかり合いがはじまっても、おかしくはない。
孟康の部下は百名ほどで、大量の輸送をする時は、その土地の人間を雇う。
以前はもっと部下がいたが、それはいま、塩の道に投入している。
孟康の野営地に、武松と李逵が現われた。
この二人は、どこで野営していても、必ず居所をつきとめて、思いがけない時に姿を見せる。
「俺たちは、梁山泊へ戻る。塩の道も、女真のことも、呉用殿の見通しでは、潰えることはない」
武松は、静かな男だった。
軍人という感じはないが、本隊も指揮ができる人間を、もっと必要としているのかもしれない。
李逵には無理だとしても、武松は指揮ができるだろう。
「林冲が、死んだのだな」
「俺は、仕方がないと思っているよ、孟康。あの男は、どこかで死にたがっているようなところがあった」
「豹子頭か。一代の英傑であったな」
「俺がいたら、死なせはしなかった。死んじゃいけねえ人間ってのがいるんだよ。宋江様がそうだし、魯達の大兄貴もそうだ」
李逵が言う。
この男は、自分が死ぬことなど考えたことがないのだろう、と孟康は思った。
それでも、人は死ぬ。
「女真族の方は、どうなんだ、武松?」
(…この続きは本書にてどうぞ)
北の地域での物の動きが、慌しくなっていた。
童貫軍の兵站線は、北が中心になっているようだ。
兵站を切るのは、難しい。
十日切ったとしても、さし迫った事態にはならないだけの蓄えが、濮州近辺の城郭にはあるはずだ。
孟康は、これまで付き合いのあった商人を通じて、麦を買い集めた。
麦秋までには、まだ時がある。
各地で少なくなっている麦を集めることで、童貫軍に麦が入りにくくなる。
それぐらいのことしか、できなかった。
梁山泊の兵糧は、潤沢である。
だから、買い付けた麦を、運びこむ必要はない。
船で、さらに北へ運んだ。
女真の地である。
山に拠る阿骨打は、兵糧が不足している。
なぜ女真族を助けるのか、理解できないところはあった。
童貫軍との決戦なのだ。
女真族に銀や兵糧を送っている場合ではない、という気もする。
命令は、聚義庁から出ていた。
だから、宋江も承知していることだろう。
自分や自分の部下が、戦に加わったとしても、大した力にはならない。
うまく理解できないことでも、聚義庁の命令に従っていた方がいい。
これまでも、理解できない命令は時々あり、終ったあとに、なんのためだったかわかったりしたのだ。
「国境近辺の州には、もう余分な麦はありませんよ。
西じゃ、足りなくなっているという話です」
女真の地へ送るのではなく、西に運べば、間違いなく高く売れる。
つまり、商いになるのだ。
しかし、そうしろという命令も出ていない。
「いま代州より西へ運んだら、結構な儲けになるはずなんですがね」
言い続ける部下を、孟康は制した。戦より、商いがうまい部下ばかりだ。
「とにかく、女真へ運べ。さすがに、もう銀を運ぶことはないが、兵糧は役立つはずだ」
「女真族が遼と闘えば、宋は国境の警備が楽になる。つまり、宋を利していることになりませんかね」
利に聡い部下ばかりで、だから情況もよく見る。
確かに、阿骨打が決起してからは、国境守備の宋軍は、楽になっている。
「梁山泊軍が闘っているのは、禁軍だ。童貫だぞ。
国境などは、どうでもいいのだ。
いま女真に兵糧を送ることは、いずれ役に立つと聚義庁では考えているのだろう。
いずれが、三年先か、五年先かはわからんが」
「ですよね。頭じゃわかっているんですが」
女真に送った麦は、相当な量になる。
ほかには、五台山の近くの山間に、かなりの量を蓄えているし、深州の近辺に拠点を築いた唐昇にも、いくらかの量を送っている。
唐昇の一党は八百ほどに増え、宋軍に攻められたら闘う、という構えは見せているが、完全に梁山泊と合流するまでには到っていない。
唐昇の心の中で、さまざまなものがせめぎ合っているのだろう。
宋江や呉用と、書簡のやり取りはあるようだ。
いま、通信のすべては、張横と王定六がやっていた。
以前より速くなったのは、船飛脚と人が駈けることの組み合わせが、どの地域でもうまくいきはじめたからだろう。
童貫軍は、梁山泊軍本隊と、二十里の距離まで近づいてきているという。
そこで腰を据え、睨み合っているというのが、いまの状態だった。
いつぶつかり合いがはじまっても、おかしくはない。
孟康の部下は百名ほどで、大量の輸送をする時は、その土地の人間を雇う。
以前はもっと部下がいたが、それはいま、塩の道に投入している。
孟康の野営地に、武松と李逵が現われた。
この二人は、どこで野営していても、必ず居所をつきとめて、思いがけない時に姿を見せる。
「俺たちは、梁山泊へ戻る。塩の道も、女真のことも、呉用殿の見通しでは、潰えることはない」
武松は、静かな男だった。
軍人という感じはないが、本隊も指揮ができる人間を、もっと必要としているのかもしれない。
李逵には無理だとしても、武松は指揮ができるだろう。
「林冲が、死んだのだな」
「俺は、仕方がないと思っているよ、孟康。あの男は、どこかで死にたがっているようなところがあった」
「豹子頭か。一代の英傑であったな」
「俺がいたら、死なせはしなかった。死んじゃいけねえ人間ってのがいるんだよ。宋江様がそうだし、魯達の大兄貴もそうだ」
李逵が言う。
この男は、自分が死ぬことなど考えたことがないのだろう、と孟康は思った。
それでも、人は死ぬ。
「女真族の方は、どうなんだ、武松?」
(…この続きは本書にてどうぞ)