水滸伝 十五
折戟の章(せつげきのしょう)
どの寨が崩れても、梁山泊は潰滅する。
極限状況の中、各寨は必死の防戦をしていた。
特に激しい攻撃に晒された流花寨は、花栄らが死を覚悟して闘い続ける。
しかし、官の水軍の進攻が始まり、それも限界が近づいていた。
一方、宣賛は起死回生の策を考え出す。
密かに李応や索超、扈三娘を北京大名府に急行させた。
梁山泊の命運を握る作戦が今、静かに始まる。
北方水滸、危局の十五巻。
折戟の章 目次
天英の星
地熬の星
地遂の星
天損の星
地察の星
地奇の星
折戟の章(せつげきのしょう)
どの寨が崩れても、梁山泊は潰滅する。
極限状況の中、各寨は必死の防戦をしていた。
特に激しい攻撃に晒された流花寨は、花栄らが死を覚悟して闘い続ける。
しかし、官の水軍の進攻が始まり、それも限界が近づいていた。
一方、宣賛は起死回生の策を考え出す。
密かに李応や索超、扈三娘を北京大名府に急行させた。
梁山泊の命運を握る作戦が今、静かに始まる。
北方水滸、危局の十五巻。
折戟の章 目次
天英の星
地熬の星
地遂の星
天損の星
地察の星
地奇の星
天英の星
二十艘の中型の船隊を、宋軍の正面に回した。
宋軍の前衛は、大型船が百艘ほどである。
圧倒的な水軍力の差をどう凌ぐかが、李俊の最初の勝負だった。
何度か、小さなぶつかり合いはやった。
そういう水上戦では、中型船の方が小回りが利く。
動き回って攪乱し、一艘か二艘は沈められた。
しかし、限界はある。
百艘の前衛が一斉に下ってきただけでも、止められるかどうかわからない。
梁山湖まで下ってきた敵船の、迎撃態勢はできていた。
五艘の大型船と、二十艘の中型船。槍魚が十本ある。
三十艘の大型船が侵入してきても、撃破はできるはずだった。
敵の前衛の位置は、流花寨の上流二十里である。
潜水部隊に対する警戒は厳しく、いまのところ張順は近づけない。
碇は打っているが、綱を切られたとしてもすぐ動けるように、両舷に二挺ずつの櫓を昼夜出していた。
そして、潜水部隊を待機させている気配だった。
「船の動きは、こちらの方がずっといいのだ。特に中型船の動きは、明らかに違う」
そばにいた、阮小七に言った。
童猛は、大型船を率いて、流花寨の近辺にいる。
李俊が狙っているのは、敵船の拿捕だった。
二十艘の大型船が手に入れば、戦力は格段に向上する。
「あの船隊のうちの数十艘を手に入れるといっても、無傷では無理だろう、李俊殿」
「それを、無傷で手に入れたいのだ」
「まったく、無理を言うもんだよ。大型船となりゃ、動かすのに人数もいる」
「陸上じゃ、潰走という状態になるだろう、阮小七。水上じゃ、どうだ?」
「混乱はしても、潰走はしないな。同じ船に乗っているんだからな。ひとつにまとまっていて、散りようがない」
「水上に散ればいい」
「言っている意味はわかるけど、乗り移る人数もいやしないんだぜ」
そうしたいと思っていることが、全部できれば勝っている。
手詰まりだからこそ、動いてみるべきなのだ。
「張順の船隊は、まだか?」
李俊が言うと、阮小七は帆柱の上の見張りに声をかけた。
見えている、という応答があった。
張順は、小型の船隊を率い、浅瀬を溯上してきている。
「よし、楯を出せ。突っこむぞ」
李俊の命令に従って、阮小七が旗の合図を出す。
舷側に、漕手を庇うように楯が立てられた。
碇を打った敵船は、すぐには動けない。
中型船で攪乱しようとすると、大量の矢を射てくるのだ。
まさに、頭上から雨のように降ってくる矢だった。
近づけば、火矢も来る。
船が動き出していた。
李俊は、二十艘全部の動きを見ている。
帆柱の上の兵に、次々に指示を出す。
それが、後続の船に伝わっていく。
船隊は、一頭の動物のような動きをするのだ。
「いつもの攪乱だと思っている、李俊殿」
舳先に立って船の動きを決めている阮小七が、大声をあげた。
碇綱を切るような動きはしていない、ということだ。
「とにかく、敵中深く入る。反転の合図を出すまで、全力で漕げ」
水を切る音がする。
櫓の調子を合わせるための、船頭の声もする。
十挺櫓である。右五、左二。
船の進む方向を、左向きに変えているということだ。
左右五挺の櫓を、前進と後進に動かせば、その場で回ることもできる。
矢が降ってきた。
乗っている敵兵の数は多く、その分、矢も夥しい。
両側から降る矢の中を、船は突っ走る。
小型の船隊も、浅瀬を近づいてきていた。
敵の小型船も動き回るが、速さも動きも較べものにならない。
一艘に、百名ほどの兵が乗っているだろうか。
李俊が隙だと思っているのは、その人数だった。
四十艘を動かし、隔離する。
孤立した四十艘には、なんの補給もないのだ。
前に補給があったのは、四日前だった。
船内の兵糧は、残り少ないはずだ。
兵糧が尽きれば、兵たちは船を捨てる可能性がある。
そのためにも、四十艘を動かすことだった。
流花寨近辺にいる童猛の大型船も、十五艘は動きはじめているはずだった。
残りの十五艘は、隠れている。
矢の数が少なくなった。
上流にいる敵は、攪乱が自分たちにまで及ぶ、とは考えていなかったようだ。
同じ前衛でも、最前列にいる船と最後尾にいる船では、乗っている兵の心構えもまるで違う。
百艘の間を貫くようにして走った。
「反転。火矢の用意」
二十艘は、一艘も欠けることなく、敵中を突き抜けてきていた。
火矢は、油を仕込んだもので、消すのに多少手間がかかる。
魏定国が、破裂する火矢を作れるというので、いま用意をさせていた。
油を仕込んだ矢をまず射かけ、破裂する矢を射こめば、その効果はまるで違ってくる。
今回は間に合わないが、次にはそういう矢を百本は用意できるだろう。
「行け。火矢を射こめ」
(…この続きは本書にてどうぞ)
二十艘の中型の船隊を、宋軍の正面に回した。
宋軍の前衛は、大型船が百艘ほどである。
圧倒的な水軍力の差をどう凌ぐかが、李俊の最初の勝負だった。
何度か、小さなぶつかり合いはやった。
そういう水上戦では、中型船の方が小回りが利く。
動き回って攪乱し、一艘か二艘は沈められた。
しかし、限界はある。
百艘の前衛が一斉に下ってきただけでも、止められるかどうかわからない。
梁山湖まで下ってきた敵船の、迎撃態勢はできていた。
五艘の大型船と、二十艘の中型船。槍魚が十本ある。
三十艘の大型船が侵入してきても、撃破はできるはずだった。
敵の前衛の位置は、流花寨の上流二十里である。
潜水部隊に対する警戒は厳しく、いまのところ張順は近づけない。
碇は打っているが、綱を切られたとしてもすぐ動けるように、両舷に二挺ずつの櫓を昼夜出していた。
そして、潜水部隊を待機させている気配だった。
「船の動きは、こちらの方がずっといいのだ。特に中型船の動きは、明らかに違う」
そばにいた、阮小七に言った。
童猛は、大型船を率いて、流花寨の近辺にいる。
李俊が狙っているのは、敵船の拿捕だった。
二十艘の大型船が手に入れば、戦力は格段に向上する。
「あの船隊のうちの数十艘を手に入れるといっても、無傷では無理だろう、李俊殿」
「それを、無傷で手に入れたいのだ」
「まったく、無理を言うもんだよ。大型船となりゃ、動かすのに人数もいる」
「陸上じゃ、潰走という状態になるだろう、阮小七。水上じゃ、どうだ?」
「混乱はしても、潰走はしないな。同じ船に乗っているんだからな。ひとつにまとまっていて、散りようがない」
「水上に散ればいい」
「言っている意味はわかるけど、乗り移る人数もいやしないんだぜ」
そうしたいと思っていることが、全部できれば勝っている。
手詰まりだからこそ、動いてみるべきなのだ。
「張順の船隊は、まだか?」
李俊が言うと、阮小七は帆柱の上の見張りに声をかけた。
見えている、という応答があった。
張順は、小型の船隊を率い、浅瀬を溯上してきている。
「よし、楯を出せ。突っこむぞ」
李俊の命令に従って、阮小七が旗の合図を出す。
舷側に、漕手を庇うように楯が立てられた。
碇を打った敵船は、すぐには動けない。
中型船で攪乱しようとすると、大量の矢を射てくるのだ。
まさに、頭上から雨のように降ってくる矢だった。
近づけば、火矢も来る。
船が動き出していた。
李俊は、二十艘全部の動きを見ている。
帆柱の上の兵に、次々に指示を出す。
それが、後続の船に伝わっていく。
船隊は、一頭の動物のような動きをするのだ。
「いつもの攪乱だと思っている、李俊殿」
舳先に立って船の動きを決めている阮小七が、大声をあげた。
碇綱を切るような動きはしていない、ということだ。
「とにかく、敵中深く入る。反転の合図を出すまで、全力で漕げ」
水を切る音がする。
櫓の調子を合わせるための、船頭の声もする。
十挺櫓である。右五、左二。
船の進む方向を、左向きに変えているということだ。
左右五挺の櫓を、前進と後進に動かせば、その場で回ることもできる。
矢が降ってきた。
乗っている敵兵の数は多く、その分、矢も夥しい。
両側から降る矢の中を、船は突っ走る。
小型の船隊も、浅瀬を近づいてきていた。
敵の小型船も動き回るが、速さも動きも較べものにならない。
一艘に、百名ほどの兵が乗っているだろうか。
李俊が隙だと思っているのは、その人数だった。
四十艘を動かし、隔離する。
孤立した四十艘には、なんの補給もないのだ。
前に補給があったのは、四日前だった。
船内の兵糧は、残り少ないはずだ。
兵糧が尽きれば、兵たちは船を捨てる可能性がある。
そのためにも、四十艘を動かすことだった。
流花寨近辺にいる童猛の大型船も、十五艘は動きはじめているはずだった。
残りの十五艘は、隠れている。
矢の数が少なくなった。
上流にいる敵は、攪乱が自分たちにまで及ぶ、とは考えていなかったようだ。
同じ前衛でも、最前列にいる船と最後尾にいる船では、乗っている兵の心構えもまるで違う。
百艘の間を貫くようにして走った。
「反転。火矢の用意」
二十艘は、一艘も欠けることなく、敵中を突き抜けてきていた。
火矢は、油を仕込んだもので、消すのに多少手間がかかる。
魏定国が、破裂する火矢を作れるというので、いま用意をさせていた。
油を仕込んだ矢をまず射かけ、破裂する矢を射こめば、その効果はまるで違ってくる。
今回は間に合わないが、次にはそういう矢を百本は用意できるだろう。
「行け。火矢を射こめ」
(…この続きは本書にてどうぞ)